枯れない人々 公演日誌  名場面
楽屋にて 山田洋二 パク・キョンナム マルセ太郎 今野誠
今村 暴力をふるうのは、最低の男だよ。
恵美 愛なんです。
今村 愛?
恵美 あの人、やきもち焼きなんです。あたしが店のお           客さんと浮気してるんじゃないかと思ってるんです。
わかるんです、あたしには。
今村 そんなのん、愛というのじゃないよ。
恵美 そうなんです。うちの人がそういってるんです。愛があるから殴るんだって。うちの人、口下手なんです。 だから手が先に出るんです。でも殴ったあと、やさしいんですよ。悪かった、と私をしっかり抱いてくれ るんです。
大山 いくらあやまったからといっても、また叩くんでしょう。
恵美 はい。
今村 ばかばかしい
恒雄 何が人権だ。手前ら小難しい理屈ばかりこねまわしやがって、何がわかってんだよ。暴力、暴力って、
そんじょそこらのチンピラの暴力と一緒にするんじゃねえよ。恵美、こっちへ来い。
大山 (恵美を抱いて)行くことないわよ。
恒雄 余計なこと言うな。恵美、くるんだ。心配すんな、もう殴りやしないよ。

  恵美 おずおずと近づく。
恒雄 恵美の肩をだいて

恒雄 泣くな。愛してればこそじゃないか。俺だって、お前を殴りながら心では泣いてるんだ。
今村 演歌だな。(つぶやく)
恒雄 何か言ったか。
今村 いや、美しいな、って言ったんです。
恒雄 当たり前だよ。おれ達は愛し合ってるんだ。(恵美に)いつも言ってるじゃないか。世界中で愛してるのは お前一人なんだ。おれが浮気をしたことあるか?
恵美 でもあんた、すぐに!
恒雄 言うな。殴ったのは俺が悪かった。でもよ、お前が可愛いからなんだ。分かるだろう。
恒雄 いつまでも泣くんじゃないよ。さあ、おれ達の歌を唄おう。

音楽入り、二人唄う

♪水にただよう 浮き草に
 同じさだめと 指をさす
♪言葉すくなに 目をうるませて
 俺をみつめて うなづくお前
♪きめた きめた おまえと 道づれに

恒雄 お前たちも唄ってくれよ。
寛斎 だから、僕は自分の絵が売れなくとも、平気なんだ。俗物どもに分かってたまるか。
恵美 あたしが買ってあげるわ。寛斎さんの絵は高いの。
寛斎 いや、そんな。ママには差し上げますよ。あっそうだ。ママ、モデルになってくれませんか。
恵美 モデル?
寛斎 お願いします。ママを描きたい。
恵美 でもあたし、おばあちゃんよ。オッパイはちいちゃいし、お尻はたれてるし、恥ずかしいわ。
寛斎 モデルって、何も裸になるとは限ってませんよ。服を着たままで。
恵美 あっ、そうか。何だ。あたしバカね、モデルと言われて、すぐ裸になるのかと思っちゃった。
アッハハハハ。ポーズまでとっちゃって、ああ、恥ずかしい。
寛斎さん、あたしの身体(からだ)想像してたでしょ、
寛斎 外観ではありません、内なる美ですよ。(思いつめて)きっとママのヌードは美しいはずだ。
恵美 あっ、ちょっと待って。表しめてくるわ。あたしね、貧乏な人好きよ。
恵美 お店のお客さんから聞いたのです。それがわかってから、この人の何もかもが嫌になったんです。
(寛斎に向かって)あんたはね。何よ。朝起きるたびに「僕、またゆんべもゴッホの夢をみちゃった」
もう飽きたわよ。バカみたい。たまには、宝くじにでもあたった夢をみたらどうなの。
ゴッホ、ゴッホ、肺病やみみたい。ゴッホは生きてる間に、一枚も売れなかった。僕の絵も売れない。
売れないところだけ似たってしようがないでしょう。第一あんた、売ろうったって、売る絵がないじゃな いの。あたしと一緒になって一年近くになるのに、一枚も描いてないじゃない。
寛斎 恵美さん、絵は描けばいいってものじゃないよ。僕はいま壁にぶちあたっているんだ。
その壁をぶち破ることができたら、
恵美 だったら解体屋さんにでもなりなさいよ。店に来る山本さん。あの人解体屋さんだから雇ってもらえば。 壁なんかバリバリいくらでも破れるわよ。
寛斎 恵美さん、ひどい、ひどいよ(泣き顔)
志津子 ラ、ラ、ラ、ラー(何かの歌をハミングする) ね、あなた。わたしたちの新婚旅行のこと覚えてる?
敬二 (生返事)
志津子 鳥羽へ行ったのよね。泊まった旅館の名前覚えてる?
敬二 (本を読んでる姿勢のまま)忘れたな。
志津子 松涛園、松にさんずいのことぶきって書くの。
敬二 よく覚えてるな。
志津子 あれから三十五年、
敬二 お茶でも入れてくれないか。
志津子 ご自分で入れたら?
敬二 (ちょっと見て)どうしたんだ、具合でも悪いのか?
志津子 ねえ、
敬二 うん。
志津子 わたしたち、寝室を別にするようになって、何年になるかしら?
敬二 さあ、
志津子 さあ、ずいぶん気のない返事ね。
( 間 )
神田 ここは動きません。もう一度言います。僕が恵美の亭主です。僕が哲雄君のパパです。
あなたは路傍の石ころだ。
吉川 何だとお。(殴りかかるポーズ)
神田 殴るなら殴ってください、気のすむまで。その代わり、お願いです。
もう恵美や哲雄君に近寄らないでください。二人は僕の命です。僕は闘います。
大山 神田さん!
恵美 (泣く)
吉川 恵美、いかさない男をつかまえたな。

吉川 一発神田にパンチ。吉川去る。
緊張がゆるんで、神田倒れかかる。
それを加納がうけとめる

恵美 あんた、
今村 ゴッホはやっと売れたね。加納君、がっかりすることないよ。わたしも考えますよ。カーぺ・ディエム。
敬二 志津子、
志津子 あなたとのことは終わってませんよ。

みな、去りかけたとき

谷川 今村さん、大山さん。結局、調停はどうなったんですか。

FIN

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