「行儀」 マルセ太郎
いままでは原則として、学校公演は断ることにしているが、六年ほど前、福島県のP中学校にいった。
開演前、校長室で控えていた。その校長先生が言ったのである。
「うちの生徒は、日本一行儀がいいですよ」。
笑っている顔を見て、僕は、日頃手を焼いている生徒を皮肉った、謙遜の言葉と解釈し、
「いや、馴れておりますから」
と答えた。これがとんでもない誤解だったのである。校長は本気で自慢していたのだということが、あとで分かった。
体育館が会場になっている。舞台わきで、僕は用意していた。見ると会場の四隅に、竹刀を持った教師が立っている。やがて揃った足音が聞こえ、生徒たちが整列して入場してきた。クラス毎に入口で、級長が「一年一組入ります」と大声で叫び、ひざを高く上げ、両手を大きく振る行進である。次々に「◯年◯組入ります」と入ってくる行進に、一糸の乱れもない。日頃の訓練の賜物であろう。三学年全生徒が集まるのに、二十分ほどの時間がかかった。ささやかな私語がきこえた途端、「静かにしろ」
舞台わきの竹刀を持った教師が怒鳴った。そして彼は続けた。
「これから、マルセ太郎先生の公演が始まる。緊張して聞くように」
促されて舞台に上がった僕の前に、全生徒はシーンとしている。誰が合図をしたのか、機械的に拍手が鳴った。それは異様な、悲しい光景である。
僕は芸を始めた。学校ではあり勝ちな、騒がしさがない。たしかに行儀はいい。しかしトリやサルの形態模写をやっても、一人として笑う者がいないのだ。さすがに僕も途中で、
「これは授業ではありませんから、楽にして」と誘ったが、そのままの状態で、二部の「泥の河」にまで至ったのである。
校長先生の満足そうな顔が浮かんだ。