無駄話 1993.4.3
浅草松竹演芸場のころ、楽屋で芸人仲間が交わす無駄話を間くのが楽しかった。誰彼のエピソードがおもしろおかしく伝わってくる。話に尾ひれがついたり、中には与太じゃないかと思われるのもあつた。
東京漫才の大御所といわれた「トップ・ライト」の、ライトさんの話なんかそのたぐいであろう。ある夜、ライトさんが車を運転していたとき、交通警察官に停止を命じられた。ライトさんには違反をおかした覚えがなかったのだが、何はともあれ穏便にと、ここは世に知られた顔を利かせ愛想よく、「ご苦労さんです。ライトです。」と声をかけたら、警察官は難しい表情で「そうだよ」と答えたという。車のヘッドライトが点灯してなかったのである。
同輩に、ジュン高田というキャバレーでは売れっ子の漫談家がいた。彼がある地方のキャバレーに行ったとき、店にかかそいる看板を見ておどろいた。
「日劇ミュージックホールのヌードスター、ジェーン高田来たる」と出ているのだ。そのころのキャバレーは、芸能社と電話で安易に取引してたものだから、"ジュン"が"ジェーン"に変わってしまうことも珍しくなかった。また、ヌードダンサーは、何でも日劇ミュージックホール出身ということになる。僕なんか、「パントタイムの名人]と書かれたことが何度もあった。パントマイムの誤りである。そのジュン高田に、うそみたいな
失敗談がある。どこだったか地名は忘れたが、彼はキャバレーに出演した。当時、ドドンパのリズムにのった「まつの木小唄」という"お座敷ソング"が流行(はや)っていた。〆まつの木ばかりがまつじゃないー−という文句から始まって、〆あなた待つのもまつのうち−−と結ぶ、語呂合わせみたいな歌詞である。ジュン高田はこれを替え歌にして、〆松茸ばかりが松茸じゃないと、下ネタで大いにうけていた。キャバレーショーは、客よりも店のホステスにうけることが肝要である。ホステスにそっぽを向かれたら、二度とお呼びはない。彼はどこでも"松茸"を連発しでホステスたちを沸かせていた。
その夜も大うけでショーを終え、得意顔で楽屋に戻ったら、あとを追っで店のボーイが、「お客さんがテーブルに呼んでます」と伝えた。ジュン高田は上気嫌で「すぐ伺います」と返事をした。芸人なら経験のあることだが、こんなとき大体客から祝儀をもらえるものである。彼もそれを期待して、いそいそとその客のテーブルに向かった。着くと、様子が違うのにすぐ気付いた。四人ほどの客だったが、一見してその筋の人だとわかる。いずれも険しい顔でこっちを見ている。中の一人が凄んだ。
「よくも俺たちをこけにしてくれたな」
何のことか事情がわからないから、恐れながら間くと、
「俺たちは松竹(まつたけ)組だ」